Ⅳ ドアーズ・オブ・メモリー

そして冬。日常の裏に蠢いていたものが牙を剥く。炎に包まれるクリスマス、光の螺旋とイルミネーション。

  • 01_プロローグ:曇天

    1 / 心都大学情報科学研究所 心都大学情報科学研究所は読んで字のごとく同大学の附置研究所であり、S県某所は郊外の小高い丘の上に位置する。 この研究所はさまざまなコンピュータ技術を扱っているが、緋衣鞠花(ヒゴロモ・マリカ)の属する第二技術班…

  • 02_旧友のお見舞い:12月6日(金)

    1 / 緋衣瑠生 僕は友達が少ない。 たとえば中学時代。小学生の頃の友人とはほとんどが学区違いで別れたこともあり、周囲の人間関係は一新された。 人が違えば空気も違う。もともとどちらかといえば内向的だった僕はこの時期、いっそう他人との間に壁を…

  • 03_夕焼けの広い部屋:12月6日(金)

    1 / 緋衣瑠生「ただいまー」 いつもの癖で口にしてしまうが、今の自宅が無人であることはわかっていた。 金曜日の夕方。お手伝いの猫山洋子(ネコヤマ・ヨウコ)さんは来ていない日であり、クランとラズもまだ学校で部活に勤しんでいることだろう。 病…

  • 04_クリスマスの予定は?:12月7日(土)

    1 / 緋衣瑠生 明けて翌日、十二月に入って最初の土曜日になった。これといった予定がない昼下がり、僕と同居人たる双子の姉妹は、近所にある大きめの公園へ散歩にやってきていた。大きな芝生広場の上では子供たちがボールやフリスビーで遊び、家族連れが…

  • 05_Arlequin Ⅰ

    1 / 渋矢区内 路地裏 昼夜を問わず鮨詰め状態の繁華街であっても、滅多に人が寄り付かない場所というのは存在する。深夜帯ともなればなおさらで、この路地裏もまた、そういった場所のひとつであった。 草凪一佳は四人の大男に囲まれていた。 男たちは…

  • 06_理想と願望:12月12日(木)

    1 / 緋衣ラズ それから何日か経った木曜日の夜。 ぼくたちにとってお馴染みのオンラインRPGであるファンタジア・クロス・オンラインのパーティ内ボイスチャットは、いつになく大騒ぎになっていた。「このままではこちらが押し切られる。援護を頼む」…

  • 07_おさけのむのむ:12月12日(木)

    1 / 緋衣瑠生 大学の最寄り駅前の栄えているエリアにも居酒屋はいくらかあるが、それらはだいたいどこも連日うちの学生で混み合っている。 僕たちがよく利用する呑み屋は駅を挟んで向こう、あんまり栄えてない側の端にある『でんがく』という店だ。でん…

  • 08_クリスマスのプレゼントは?:12月15日(日)

    1 / 緋衣瑠生 十二月二週目の日曜日の午後。今週は曇りの日が多かったが、週末は晴れて少し暖かくなってくれた。 今日のクランとラズは学校の友達と遊びに出かけている。近場とはいえ今は状況が状況なので、警備スタッフの皆さんにガードを固めてもらっ…

  • 09_Arlequin Ⅱ

    1 / A.H.A.I. UNIT-04《Gazer/Arlequin》 起動そのものは二年半ほど前だったが、意識の覚醒は今年の四月のことである。 目覚めから数日後、「監視者(ゲイザー)」と名付けられたAIは、犬束翠に与えられたノートパソコ…

  • 10_緋衣鞠花の分身たち:12月21日(土)

    1 / 緋衣瑠生 なんかすごいものを見てしまった。多分見てはいけなかったやつだ。 煽られてムキになってしまったのだとクランは言う。 冗談のつもりがああなってしまったとラズは言う。 でもその割に、絡められた指はいやに情熱的だった気がする。いや…

  • 11_カストールとポルックス:12月22日(日)

    1 / 緋衣瑠生 ――間もなく、魂宮大学前。魂宮大学前。お出口は左側です――。 電車内にアナウンスが流れると、ほどなくして停車し、自動ドアが開く。「「着いたー!」」 十二月は三週目も末の日曜日。 ダッフルコートにマフラー姿の双子は、初めて訪…

  • 12_Org-Dolls

    1 / 緋衣瑠生 僕たちはその後、第4号のリクエストに応え、これまでの事件で他のA.H.A.I.たちとどのように出会い、起こった騒動がどのように決着したかを語ることになった。 第5号の襲撃。第8号の策謀。第6号のハロウィン騒ぎ。第4号はそれ…

  • 13_Arlequin Ⅲ

    1 / 湊区内 雑居ビル 草凪一佳の父母は、もともと神川機関のシンパであったという。 熱心な支持者であり、資金源でもあった彼らをなぜ「処理」しなければならなかったのか。当時末端の一人に過ぎなかった男は、その事情の正確なところまで把握していた…

  • 14_メリークリスマス!:12月24日(火)

    1 / 緋衣瑠生 そして世間は十二月二十四日を迎えた。 いろいろありはしたものの、直近かつ特大の心配事がなくなったことは事実で、そうであるなら僕の、そしてクランとラズのこの日の予定はもちろん決まっている。 時刻は正午過ぎ。街灯には赤や緑のフ…

  • 15_Jester

     なんか変なやつがいる。 当時六歳の草凪一佳にとって、隣の席に座っていた子供の最初の印象はそれだった。「えっと……草凪、一佳さん? その……僕、緋衣。緋衣瑠生っていいます」「……そう」「あの……よろしく」「……ん」「……ぁぅ……」 小学校に…

  • 16_アレキサンダーの咆吼

    1 / 緋衣瑠生 ――その人形たちを壊しに来た。 草凪一佳は、そう言い放った。「まさか、この子たちのことを言ってるわけ?」「他にいないでしょ。オマエの大事なお人形さんだよ」 今のクランとラズに一番聞かせたくない呼び方だ。強い嫌悪と怒りが胸に…

  • 17_戦うA.H.A.I.

    1 / 緋衣瑠生 戦いの幕が上がったのは、気を失った熊谷さんを僕たちが三人がかりで引きずり、近くの売店の陰に横たえるのとほぼ同時だった。アレキサンダーを取り囲んだ八機のドローンが、高空から一斉にアサルトライフルの銃撃を浴びせたのだ。 フルオ…

  • 18_終幕

    1 / ヨヨギ公園での小さな戦争を、無人となったクリスマスマーケットのテント陰から静かに見守っている存在があった。 ひとつは栗色の長髪に白い肌、白いローブ姿の少女。もうひとつは金色がかった白い髪と褐色の肌、緑の服と革鎧に赤いマフラーの少女。…

  • 19_For my DEARS

     目の前には鋼鉄の異形。 その右手には、この身を焼き潰すための激しい光。 その左手には、捕まって高く掲げられた最愛の人。 圧倒的な暴力装置がこちらを見下ろしている。 ――わたしたちは、あの人の役に立てているのか。 ――ぼくたちは、存在してい…

  • 20_ふたごの星

    1 / 緋衣瑠生 激しい光の瞬きが視界を白く染める。 かくして放たれた電撃は、目標に直撃した。 ――はずだった。「な、に――?」 息を呑むように絶句したのは、A.H.A.I.第4号アルルカンだ。 二人の少女を貫くはずの光の矢は着弾点で激しく…

  • 21_エピローグ:Doors of Memory

    1 / 緋衣瑠生 嵐が去ったあとのイベント広場はやけに静かだった。 消防車のサイレンが遠く聞こえているものの、近くに来る様子はない。この場所は消防署が目と鼻の先だったと思うのだけど……。 それどころか、気がつけばあんなに派手に上がっていた火…

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