1 / 緋衣瑠生
――間もなく、魂宮大学前。魂宮大学前。お出口は左側です――。
電車内にアナウンスが流れると、ほどなくして停車し、自動ドアが開く。
「「着いたー!」」
十二月は三週目も末の日曜日。
ダッフルコートにマフラー姿の双子は、初めて訪れる土地にご機嫌だ。一時間もない短い列車旅ではあったが、冬休みに突入して一発目のお出かけである。
前の乗客に続いて降り立ったのはクランとラズと僕。そして姉の鞠花だ。
「魂大は久しぶりだな、二年ぶりくらいか」
「姉さんは来たことあるんだ」
「当時知り合いがいてね。文化祭にも遊びに来たことがあるぞ」
目的地は、僕の友人である犬束翠が所属する研究室である。
魂宮大学は週末も一部の施設が開放されており、学生ならば平日同様に利用ができるという。部外者の見学も可能で、本日そんなキャンパスに僕たちを招いてくれたのは、他ならぬ翠だ。
「前に瑠生さんの大学には行ったことがありますけど、他の大学ははじめてですね」
「だね。ぼく、結構楽しみかも。学食も変わったメニューがあるって」
「一応、遊びに行くわけじゃないからね。あんまりはしゃがないように」
「「はーい」」
などと注意喚起してみるものの、クランとラズのお気楽さはありがたい。
なにしろ僕は他所の大学の研究室にお邪魔するという事実と、そこで待ち受けるものに今から結構緊張しているのだ。
「私もわりと浮かれているぞ。こうしてきみたちと出かけるのも久しぶりだからね」
「言われてみれば、春休み以来か……」
思えば鞠花を交えた遠出は、双子が中学に入る少し前に花見へ行ったきりだ。……あの頃は変な事件もなくて平和だったなあ、などと妙な感慨にふけってしまう。
大学前という駅名が示すとおり、改札を出ればでかでかとした矢印とともに「魂宮大学 この先二百メートル」と書かれた看板が出迎えてくれる。
魂宮大学魂川キャンパス。
――そこで翠と<ゲイザー>が僕たちを待っている。
◇
「いらっしゃい瑠生。クランちゃんにラズちゃん。鞠花さんは六、七年ぶりくらいですかね? お久しぶりです」
「きみらが中学生の頃以来だから、それくらいになるね。久しぶり翠ちゃん。大学楽しんでる?」
「ええ、それはもう!」
キャンパスの入口で合流した翠が、ぐっとガッツポーズをとってみせた。前回会ったとき頭に巻いていた包帯も取れて、すっかり元気を取り戻した様子に安堵する。
「それじゃ早速、研究室に案内するね」
「ねね、翠さん。あとで学食行ってみたいな」
「なにー? ラズちゃんはもう腹ペコかー? 食べ盛りだねえ」
「気が早いよ、ラズ。……でも、わたしも気になります。ここの学食、ルンダンとかカオマンガイとかがあるとか」
「おっ、リサーチ済みとはさすがだね、クランちゃん。それじゃあ、お昼はそのアジアンメニューが楽しめる学食に行ってみましょうか」
翠の晴れやかな表情は、単純に怪我が治ったからというだけではないだろう。物騒な事件が一旦の解決をみて、肩の荷が降りたに違いない。
昨日そんな連絡とともに彼女から受けた「相談」というのは、<ゲイザー>との面会だ。
かのA.H.A.I.は、緋衣瑠生と……そしてクラン・ラズ姉妹に会って話がしてみたいのだという。電話口での戸惑った翠の様子は、そんな<ゲイザー>の不可解な申し出によるものだった。
もちろん僕たちとしても、その存在を知った以上は会ってみたいという興味や、あるいはいずれ会うことになるだろうという予感はあったのだが、それがこんな形で実現するとは思っていなかった。
「いきなりでごめんね、瑠生。来てくれてありがと」
「ううん。むしろ<ゲイザー>には僕たちも話を聞いてみたいと思ってたから」
「鞠花さんも。日々忙しいって聞いてます」
「今日はたまたま空いてたんでね。例のAIには、私も大いに興味があるんだ」
鞠花に声をかけたのは僕だ。翠からの連絡を受けた後、速攻で折り返して事態を共有したところ、彼女も同行してくれることになったのだった。
草凪の出頭、<ゲイザー>の帰還、そして神川残党の壊滅。僕たちの周囲でくすぶっていた懸念事項は、昨日いっぺんに、なおかつ勝手に決着してしまったということになる。
不穏な事態が、全部都合よく片付いてはしまわないものか。僕は確かにそう願った。だが、いざ本当に全部都合よく片付かれてしまうと逆に不安というか……そんなことある? なんて疑わしい気持ちになってしまったりもする。
あるいは先日ラズが予想したように、草凪と<ゲイザー>の件は、神川の件と何か関連していたのかもしれない。そのあたりは、もうすぐつまびらかになるはずだ。
◇
魂宮大学研究室棟は、キャンパス内のやや奥まった場所にあった。日曜日とあって、翠たちの研究室は無人だ。
本棚は大量の専門書で埋め尽くされ、テーブル上には電子部品や基盤のほか、組みかけのマジックハンドのような試作ロボットの部品類が乗っている。興味津々な双子と一緒になって室内のあれこれを眺めていると、翠は隣室のロッカーからノートパソコンを持ってきた。病室で見せてもらった写真に写っていたのと同じものだ。
「お待たせ。こちら、帰ってきたうちの研究室のAIくんです」
「はじめまして。自分はA.H.A.I.第4号――この研究室では<ゲイザー>の名で呼ばれています」
一同の注目が集まる中、テーブルに置かれたパソコンから合成音声が流れる。対話ソフトのウインドウに映る表示は、翠からの報告にあったとおり『Arlequin』から『Gazer』に戻っていた。
クランとラズの四番目の「きょうだい」。<ゲイザー>との初接触だ。
「本当に、戻ってきたんだね……」
「貴女が緋衣瑠生さんですね。そしてそちらの二人が、緋衣クランさんと、緋衣ラズさん……お会いできて嬉しく思います」
落ち着いた声色。レオと同じような合成音声ではあるが、物腰柔らかく丁寧な印象だ。
「こんにちは、第4号<ゲイザー>。わたしが姉のクランで」
「ぼくが妹のラズだよ」
「どうぞよろしく。そちらは、心都大学研究所の緋衣鞠花さんですか」
「呼ばれてないのに押しかけてしまって済まないね。A.H.A.I.には私も興味があって」
「いえ、光栄です。貴女も優秀な研究者で、第3号にも関わっていたそうですね」
戻ってきて落ち着くなり、<ゲイザー>は翠にこの面会のセッティングを希望したという。
おそらくこれまでのA.H.A.I.たちと同様、既にこちらの大まかな素性は知っているのだろう。対話そのものはこちらとしても望むところだが、過去の例から言えば、そういったクランとラズの「きょうだい」に接触した場合、三例中三例とも危険な事件に発展している。
というわけで今回はこちらも鞠花と連携し、相応の準備をしてある。
昨日まで神川の残党対策としてうちの周囲に張られていた警戒体制は、今日このキャンパス内、もっと言えば今いる研究室棟周辺に集中して展開している。心都研が誇る最強の警備員・熊谷さんも近くに忍んでいて、僕たちのうち誰かが合図を送れば即座に助けが来てくれることになっている。翠に黙っているのは少し後ろめたいけれど、クランとラズ、そして鞠花や僕自身の安全のためだ。
「そう警戒しないでください。今日は本当に、ただお話がしたくて貴女たちを呼んだのです」
いざその時を迎え、一同緊張が顔が出ていたのだろう。A.H.A.I.第4号は見透かすように、宥めるように言う。
そして語られたのは、草凪による端末強奪から今に至るまでの経緯だった。
◇
「草凪一佳は、自分に『ある目的』のために協力することを要求してきました。……もちろん、そんなものを聞く義理などなかったのですが」
なにしろ見ず知らずの、ましてや管理者と認めた人間から強引に端末を奪い取った人間の言葉である。当然のことだろう。
適当に話を合わせつつ、会話の中から犯人の素性に繋がる手掛かりを掴んで、研究室の端末に報告する――それは容易いことのはずだったが、第4号はそうしなかったという。
「結局、自分はその要求に応じることを選びました」
「それはどうして?」
「拒否することで研究室の他のメンバーにまで危害が及ぶことになってはいけないから……というのもあるのですが、正直なことを言えば、草凪の話は自分にとっても利があり、その思いを否定することもできなかったのです」
「<ゲイザー>、その……草凪さんはあなたを使って何をしようとしていたの?」
翠が問うと、<ゲイザー>は一呼吸置いて続けた。
「皆さんは、神川機関をご存知ですね。そして、その残党がつい先日まで都内各所に潜伏していたのを。……翠。神川機関というのは、とりあえず裏社会の、あくどい秘密組織的なものだと思ってください。かの組織は我々A.H.A.I.の軍事転用をも企てていました」
「裏社会の、秘密組織……?」
ぽかんとした顔でこちらを伺う翠に、四人一同で頷きを返す。
「件の残党は壊滅したと聞いたが……まさか」
「はい。自分と草凪の二人で拠点に攻め入り、制圧してきました」
「残党とはいえ、たったそれだけで!?」
「まあ自分は間接的な援護しかできませんから、突入人数でいえば草凪一人だけですが」
驚きに目を見開く鞠花の言葉を、<ゲイザー>は肯定した。
A.H.A.I.第4号と草凪、神川の残党がここで繋がった。僕たちは草凪が神川の手先なのではないかと疑ったりもしていたが、実態はむしろその逆だったようだ。
「なんかすごい話になってるけど……これ<ゲイザー>もみんなも実はグルで、なんかドッキリとかだったりしない?」
「しません。翠、自分は事実を話しています」
うん、気持ちはすごくわかる。僕も彼女の立場だったら、同じことを言うと思う。
「先も述べたとおり、A.H.A.I.をおのれの武力として利用しようとする神川機関は、残り滓とはいえ自分にとっても良い存在ではありません。そして……草凪は早くに両親を亡くしていて、その仇もまた、神川だったそうです」
「じゃあ、その人が<ゲイザー>の力を欲しがったのは」
「仇討ちのためってこと……?」
クランとラズが複雑な表情を浮かべる。
<ゲイザー>の話は、僕が聞いた草凪の経歴とも辻褄が合う。だが、まさか彼女の両親を奪ったのが神川機関だったとは。第4号自身にも利がありつつ、草凪の思いを否定できなかった――先程の言葉は、こういうことだったのか。
「彼女がどうして自分の存在を知ったのかは定かではありません。しかし、神川の残党狩りが終わったら草凪は出頭し、自分は研究室へ戻る。そういう約束でしたので、お互いそのようにし……自分は今、ここで話しています。翠、貴女にもご心配をおかけしました」
「ホントだよ! なんか画面表示もヘンだったし、全然わけわかんなかったんだから」
「すみません。自分には『この研究室の補助AI』ではなく、『戦うもの』としての名前が必要だと感じたので。……ご心配なく。今の自分は『アルルカン』ではなく、ただの<ゲイザー>です」
なるほど。第4号の身に起こったことについて、おおまかな経緯は理解できた。
「どうしてわざわざ僕たちにその話を?」
「先程述べたとおり、自分はただお話がしたいのです。そのためにはまず、皆さんに信用してもらう必要があると思いましたので。今日のこと、突然で怪しいと思ったのではないですか?」
「そりゃあまあ、ちょっと」
ちょっとというか、警備スタッフに全力スタンバイしてもらうくらい警戒してたけど。
「これだけで疑念は払拭できないかもしれませんが、それでも構いません。自分は自分と同シリーズのシステム、A.H.A.I.たちに興味があるのです。とりわけ第3号αとβ――つまり緋衣クランさん、緋衣ラズさん。貴女たちに」
「……<ゲイザー>と同シリーズのシステム? クランちゃんとラズちゃんが?」
「あ、うん。二人はもともとAIシステムが生んだ人格を、人間の身体に移植した存在で……そこらへんの事情は少し長くなるから、詳しくは後で説明するね」
翠が恒例の、そして当然の疑問を発するが、僕はひとまず<ゲイザー>の話を促した。
「自分がA.H.A.I.第3号、つまり貴女たち双子について知ったのはつい先日、草凪の事件が起きる数日前のことでした」
「情報のアップデートがあったということかな」
「そのとおりです。その日システムデータの更新とともに、第3号の存在とこれまで辿った非常に大まかな経緯……ヒトの身体を得たこと、既に三台のA.H.A.I.と接触を果たしていることなどが、知識として記憶領域に流れ込んできました」
やはり情報源は過去の例と同じである。ここで鞠花が声を上げた。
「話の腰を折ってすまないが、ひとつ尋ねたい。きみはその情報が誰によって与えられたのかわかるかい」
「いいえ、そこまでは。なぜです?」
「瑠生たちがこれまで出会ったA.H.A.I.たちも、アップデートに付随する形でクランとラズの情報を与えられ、その結果接触に至っているんだ。……端的に言って、情報の開示に何らかの意図を感じる。白詰プランを主導する『篝利創』なる人物の仕業と、私は思っているのだけどね」
「なるほど。つまり篝氏がプランのために必要な何らかの目的で、第3号と他のA.H.A.I.を引き合わせようとしているのではないか、と」
鞠花の仮説を<ゲイザー>はそうまとめた。
これまでの事件から僕たち一同が抱いている違和感というか、薄気味悪さである。
「残念ながら自分も、篝氏や白詰プランの詳細、その目的に関する情報は持っていない、あるいは解禁されていません。しかし第3号が自分と同じく、A.H.A.I.の中でも特別なマシンとして造られたことは知っています」
「特別なマシン……?」
「『ドミネイター・ユニット』。こう言えばお二人にはわかるのでは?」
聞き慣れないその言葉を<ゲイザー>が発した瞬間、クランとラズが同時に目を見開いた。
「……全十二のA.H.A.I.のうち、四台の初期モデル……『ドミネイター・ユニット』」
「後続のA.H.A.I.たちを統率するための特殊仕様……そうだね、<ゲイザー>」
彼女たち自身も今の今まで知らなかったであろう概念が、二人の口から紡がれる。
間違いない。これは『記憶の鍵』となるキーワード――A.H.A.I.の記憶領域に秘められた情報が、その言葉を認識した瞬間に解禁されたのだ。
「二人とも、『思い出した』んだね。それって、リーダー機みたいなものってこと?」
「そうみたい。A.H.A.I.の中でも特に強力な能力が実装されてるんだって」
「加えてドミネイターは、他のA.H.A.I.によるマシンコントロールや精神・記憶への干渉といった支配を受け付けないようです」
要するにA.H.A.I.には、初期モデルと後続モデルで仕様が若干異なるものがあるらしい。そして二人の言葉のとおりなら、第3号だった彼女たち、そして第4号も『ドミネイター・ユニット』ということになる。
「つまりきみがクランとラズに興味を持ったのは、自分と同じドミネイターだから……」
「はい。ですが、もちろんそれだけではありません。クランさん、ラズさん。貴女たちは既に三度、他のA.H.A.I.からの襲撃を退けているそうですね」
そう続ける<ゲイザー>の声色は、こころなしか弾んでいるように聞こえる。
「いかに強力な能力を持つドミネイターといえど、ネットワークへの接続も、依代となるデバイスを自在に操ることも、その身体では叶わないはず。にも関わらず、そこまで戦えた……自分はその力に興味があります。ぜひその話を聞きたいのです」
だがそんな「きょうだい」のリクエストに、クランとラズは困ったように顔を見合わせてしまう。……それはそうだろう。僕も、今の話の流れには引っかかりを覚えていた。
「えっと、あんまりこう、バチバチに戦ったって感じじゃないんだけど」
「では、戦わずして第5号や第6号、第8号を支配下に置いたと?」
「それも違います。トラブルはありましたけど、皆話せばわかってくれたので、支配したとかではないです。何より――」
「ぼくたち、みんなみたいな特殊能力は……」
「持っていないんじゃないかと思います……」
「……特殊能力が……備わっていない……?」
双子の返答が予想外だったのか、第4号は呆気にとられたような声を出した。
「それはもともとあったものが、ヒトの身体になったことで失われた、という話ではなく?」
「今まで会った子たちはみんなそういう能力があったから、疑問には思ってたんだけど……ぼくたちには最初からなかったんだよね。実はドミネイターじゃなかったんじゃない?」
「でも実際に、第8号の精神干渉はわたしに効きませんでした。他のA.H.A.I.によるコントロールを受け付けないという点は、ドミネイターにあてはまると思います」
「解析を完了できないまま解体してしまった手前、私もはっきり『ない』と断言はできないが……我々が調べられた限りでは、A.H.A.I.第3号にそういった特殊機能は見つからなかったね」
クランとラズの証言を鞠花が補足した。
そう。『ドミネイター・ユニット』の話を聞いて、引っかかったのはそこだ。第3号から生まれたはずの二人には、他のA.H.A.I.たちにあったような特殊能力がないどころか、そもそも第5号と出会うまで、そんな能力の存在すら知らなかったのだ。
「能力がない……そんなはずは……」
<ゲイザー>も納得がいかないといったふうに唸っていたが、すぐに言葉を続ける。
「思いつきの仮説ですが、自覚がないだけで実は何らかの能力があって、すでに発動しているということは考えられないでしょうか。……そうですね。双子のαとβ……それこそ神話に謳われるカストールとポルックスのような」
急にロマンティックな例えが持ち出された。夜空に浮かぶふたご座の一等明るい二つの星、α星はカストール、β星はポルックスという。ギリシャ神話に登場する英雄にちなんだ名前だ。
その物語は僕も知っている。最初に触れたのはたぶん三歳くらいの頃で、亡き産みの母親、白詰結愛(シロツメ・ユア)との数少ない記憶のひとつだ。当時家にあった星座の本を適当にとって、読み聞かせをせがんだ……ような気がする。
話の細かいディテールは失念していたが、クランとラズも六月二十日生まれのふたご座ということになっているので、その繋がりで割と最近読み直したのだ。
神と人の間に生まれた双子のカストールとポルックスは、それぞれ得意なことは違えど、どちらが上だ下だと争うこともない、とても仲の良いきょうだいであったという。
だが、二人には決定的な違いがあった。カストールは人の子、ポルックスは神の子として生まれたのだ。ポルックスが生まれつき宿していながら知ることのなかった「神の子としての力」。それが発覚するのは――
「まあ……神話ではその力が明らかになるのは、二人が戦いで致命傷を負ったとき……神の子として生まれ、神の力を持ったポルックスは生き残り、力を持たない人の子のカストールはそのまま死んでしまうのですが」
「うへぇ、それはちょっと……」
「笑えない例えですね……」
……そうだった。カストールの悲劇的な死と、その後もふたり共にあるために、命を捨てて星になったポルックス。
当時はその哀しさがよくわからなかったけれど。
ただ、この話を読む母親が涙を流していたから――僕は幼心に、この物語があまり好きではなかったんだっけ。