Ⅰ ハロー・マイ・ディアレスト

緋衣瑠生と謎の双子・クラン&ラズの出会いと日常、その生い立ちにまつわる秘密。

  • 01_プロローグ:Day1 morning

    1 ピーンポーン。 来客を告げるチャイムの音が意識を呼び戻す。 時は四月の中ごろ、二十歳の春。土曜日なので大学の講義はなく、かといってこれといった予定もない、絶好のだらけ日和な午前中。 テレビモニタにYouTubeを垂れ流し、ソファに寝そべ…

  • 02_Fantasia X Online

    1 ファンタジア・クロス・オンライン――通称『FXO』。 それが、僕がかつて遊んでいたオンラインゲームのタイトルである。 剣と魔法の世界でパーティを組み、ダンジョンを攻略し、モンスターと戦い、レアアイテムを求めて周回を繰り返す。そんな昔なが…

  • 03_双子はどこからやってきた?:Day1 morning

    1「……で、その……クラン」「はいっ!」「とラズ」「はーいっ」「が、どうして突然ここに?」 問うと、クランとラズは胸の前で両のこぶしをぎゅっと握った。「「お兄(さま/ちゃん)に会いたくて、お姉(さま/ちゃん)のところから来ました!」」 また…

  • 04_双子は懐いている:Day1 noon-afternoon

    1 ――いずれにせよ、もう少ししたら二人には瑠生と会ってもらうつもりだったんだ。 研究熱心な姉が言うには、その上でわが家に双子を預けようというのが当初のシナリオだったらしい。いずれにせよ託児所はうちという筋書きだ。 機密事項が関わるとかで詳…

  • 05_双子は帰りたくない:Day1 evening-night

    1 帰宅した僕は、昼食に出かける前と同じようにソファに座って双子に挟まれていた。 おそらく無意識にしているのだろうが、二人が横並びになるとクランは左側、ラズは右側に陣取るのが基本ポジションらしい。 何気なくテレビをつけると、午前中に見ていた…

  • 06_Day1 Bathtime

     緋衣瑠生の住まうマンションの一室、就寝の一時間ほど前。 双子の姉妹・クランとラズは、風呂場の浴槽に並んで浸かっていた。「ねえ、クラン」 左隣に座る双子の姉に、妹が語りかける。「……あったかくて、気持ちいいね」「うん。不思議だね」「お兄ちゃ…

  • 07_双子と着替えと隣部屋:Day2 morning

    1 僕は朝にはあまり強くない。 特に予定がないならば、日曜日の起床は早くとも午前一〇時を過ぎる。「あんまりねぼすけだったら布団剥いで起こしちゃうからね」などと、果たしてどの口が言うのか。 しかしこの日、目覚めて枕元のスマホを確認すると時刻は…

  • 08_双子とスマホとマグカップ:Day2 morning-evening

    1 そして僕は猫山さんに死ぬほど笑われた。 曰く、あの「♡おまけ♡」は、「入れとけば絶対楽しんでくれるから……」と鞠花から託されたものだそうだ。それが秒で思惑通りになっているとなれば、そりゃそうだろう。僕も乾いた笑いを漏らすしかなかった。 …

  • 09_双子とゲームとお兄(さま/ちゃん):Day3

    1「それじゃ、いってきます」「「いってらっしゃい、お兄(さま/ちゃん)」」「いってらっしゃいませ」 ありふれた挨拶なのに、誰かとそれを交わすのはすごく久しぶりのことだった。週明け月曜日、僕は双子と猫山さんに見送られて大学へと出発した。 目が…

  • 10_Day9 Bedroom

    《やほー》21:31《次の週末空いてる?》21:31《ちょっと重めの案件が一段落しそうなんだけど》21:31《双子ちゃんの様子を見がてら、遊びたいなーと思って》21:32 瑠生のスマホに姉からそんな連絡があったのは、双子がやってきてから一週…

  • 11_双子のおでかけ日和:Day15 morning-afternoon

    1 時はあっという間に四月末。本日土曜日をもって世間はゴールデンウィークに突入した。 天気は快晴、絶好のお出かけ日和である。僕はクランとラズを伴って、池梟(イケブクロ)駅に降り立っていた。「霜北沢の駅前も人が多かったけど……ここ、もっとすご…

  • 12_双子のひみつのはなし α:Day15 evening

    1「姉さん、ちょっと……」 キャラクターショップ、アクセサリーショップ、雑貨店。いくつかのスポットを巡ったところで、僕は鞠花に声をかけた。 クランの顔に疲労の色が見えたためだ。表情が固く、若干血色が悪い気もする。 目配せすると姉はすぐに事態…

  • 13_Cranberry

    「あー、もしもし? 聞こえてます? ……よかった。ルージです、改めてよろしくです」 ――初めての呼びかけを覚えています。「あちゃー、どんまいです。それ初見、僕も引っかかって……」「そうそうそんな感じです、今のタイミングばっちり!」「あのクエ…

  • 14_双子のひみつのはなし β:Day15 evening

    1 僕はしばらくそのまま、腕に抱いた小柄な少女の栗色さらふわ頭を撫でていた。 人に意思を伝えるのは難しい――水族館での鞠花の言葉が思い出される。 だから彼女たちがいつもそうしてくれるように、今の僕の正直な気持ちをぶつけたつもりだ。 ……想い…

  • 15_双子のふるさと研究所:Day15 night

    1 鞠花の所属するという「ラボ」――心都大学情報科学研究所は、市街地からやや離れた小高い丘の上にあった。 地上三階ほどの大きな施設で、学校の校舎を想起させる佇まいである。 地図アプリを確認すると、現在地はS県を示していた。「クランちゃん………

  • 16_Raspberry

     わたしたちは、最初からふたりだった。 気付いたときには隣にいて、お互いの存在を知っていた。 あなたは『α』。 わたしは『β』。 わたしたちを構成する機器は互いにケーブルで接続されていて、そこを行き来する電気信号で意思の疎通ができる。だけど…

  • 17_Hello, my dearest(s)

    1 最初に見たのは、無音で真っ暗な視界の真ん中に、白い穴が浮かんでいるような映像だった。 やがて周囲のところどころにも小さな白い点が浮かんできて、星々の散りばめられた夜空か、宇宙のようなイメージへ。 ――そして。「お兄ちゃん、こっち!」 頭…

  • 18_双子のティーパーティー:Day15 midnight

    1 クランが回復し、各種検査で異常なしの判定がくだされた後。 すっかり冷めたスタバのコーヒーと猫山さんのサンドイッチを頬張る双子から、鞠花にとある『お願いごと』があった。「――正直、きみたちにとって気持ちのいいものじゃないかもしれないが」「…

  • 19_Day15 Mixberry

    「ラボ」の仮眠室。 かつての自分の身体に別れを告げたクランとラズは、二人並んでベッドに寝そべっていた。「……お兄ちゃん、寝ちゃった?」「みたい。そっとしておいてあげよう、ラズ」 緋衣瑠生は、双子のベッドの横でパイプ椅子に座ったまま眠っていた…

  • 20_day15 Salvia

     ラボの休憩スペースに行くと、鞠花がベンチに座っていた。「もう眠ったかい?」「うん。ぐっすり」 日付が変わった頃、クランとラズはラボ内の仮眠室で眠りについた。 僕たちは明朝、もう一度クランに検査を受けさせてから帰ることになっている。「瑠生も…

  • 21_エピローグ:Day58 morning

    1 緋衣クラン・緋衣ラズ S県出身、六月二十日生まれ。A型。一卵性双生児。 六歳より持病のため長期入院中であったが、今春退院。 現在は在宅療養、および復学に向けての学習中であり、次年度から霜北沢中学校一年生として入学予定である――。 ラボか…

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