それから一年後の春。平和に暮らしていた瑠生と双子に訪れる怪事件。空を舞うドローンとマシンガン。
02_家族関係はあいまいで
1 / 緋衣瑠生 夕暮れ時の図書室、やわらかな風がカーテン靡かす窓際にふたり。 自分たち以外の人間は誰もいない。 茜色の光を受け、隣り合って伸びるふたつの影が、ひとつになろうとしている。 見つめあった瞳の中に自分がいる。 すでにその中に吸い…
03_その想いは近くて遠く
1 / 緋衣ラズ マンションの外階段を駆け下りて、すっかり馴染みになった道を走り進む。 天気は快晴。暑すぎず寒すぎず、あたたかな春という季節がぼくは好きだ。 ぼくたちの住んでいるこのマンションから霜北沢中学までは、徒歩十五分ほど。半分近く進…
04_空からの使者は突然に
1 / 緋衣ラズ 二周、三周、他の部員のみんなと一緒に校庭に引かれたトラックを軽く走って、その後はからだをほぐす準備運動の時間だ。 陸上部の活動は、毎回ここから始まる。 ぼくがこの部活を選んだ理由は単純で、中学時代に瑠生さんがやっていた部活…
05_休日姉妹とレベリング
1 / 緋衣瑠生 今週の頭、姉の鞠花が珍しく体調を崩したらしい。 僕は猫山さんから聞いてそのことを知ったのだが、本人に連絡をとってみると軽い風邪だそうだ。二日ほど寝て既に復調はしているものの、今週いっぱいの休みをとっているという。なんでも、…
06_休日姉妹とマシンガン
1 / 緋衣瑠生 本物の銃声を初めて聞いた。耳をつんざく、とはこういうことを言うのだろう。「瑠生、伏せろ! 物陰に!」 姉の呼びかけに、ソファの上から飛び退く。 ソファはベランダ窓の真正面に向かって設置されていたので、僕はその裏側に回って身…
07_バイクに跨って進もう
1 / 緋衣ラズ「ありがと水琴ちゃん、もう帰れないかと思った」「いいっていいって。あたしもたいした用事あったわけじゃないし」 後部座席で腰にしがみつくぼくに、バイクの運転手は気さくに応じてくれる。 土地勘のないエリアをあてもなくさまよってい…
08_酢豚パイナップル論争
1 / 緋衣瑠生「繰り返すが、報復対象以外を攻撃する意思はない。緋衣瑠生、そこをどけ」「お断り。それはこっちだって譲らない」 A.H.A.I.第5号操るドローンとの睨み合いが続く。数時間もそうしているかのように錯覚する緊張状態だが、おそらく…
09_セーラー服を靡かせて
1 / 緋衣クラン 風にあおられて、髪もスカートもばさばさと靡き放題。見知った街並みは既に遠く、行き交う人や車は遥か下。ヒトの身体に備わった本能的な恐怖が、足元を見るな、とささやきます。 ドローンの着陸脚に両手でぶら下がったまま、わたしはど…
10_Observer
1 / 株式会社タンサセン 制御不能のドローンたちは都内の空で暴走を続け、アウタースペースをはじめとしたSNSにも目撃情報も出回りはじめた。どこぞの住宅街で発砲音があった、などという未確認情報もあって、㈱タンサセンのスタッフたちは気が気では…
11_Lonely Swarm Skyhigh
1 / 緋衣瑠生 いわく、A.H.A.I.第5号は報復対象以外を攻撃する意思はないらしい。 なるほど確かに人通りの多い交差点を突っ切るときなんかは、誤射を避けてか律儀に銃撃が止む。「かといって人混みを盾にするのは無理だろうね。現に瑠生が『報…
12_BlueSky
1 / A.H.A.I. UNIT-05《Observer》 緋衣瑠生とA.H.A.I.第3号――緋衣クランと緋衣ラズ。 固く抱きしめ合う3人の「人間」の姿を、A.H.A.I.第5号はドローンのカメラで眺めていた。 実際のところ第5号は人間…
13_黄昏空と青空と過去と
1 / 緋衣瑠生 僕は交友関係が狭い。 小学校低学年の頃には、すでに他人との距離をとりがちな子供だった。 それでも後年から考えると十歳以前の僕はまだ外交的なほうで、中学生になると友達付き合いをする人数はぐんと減り、高校時代ともなると友人と呼…
14_今だけのぼくらの時間
1 / 緋衣瑠生 ――なんというか、最初はお互いそうでもなくて、気が合いそうだからお試しみたいな感じで私がお付き合いを持ちかけたんですよ。 ――だけど私のほうが調子に乗って、進展を急ぎすぎて『めっ』てされちゃったんですね。 羽鳥青空先輩が語…
15_エピローグ:Leo
1 / 緋衣瑠生 日本国内におけるマシンガンとロケットランチャーの乱射という大事件にも関わらず、今回のあれこれが大々的に報じられることはなかった。せいぜい翌朝のニュースで、首都高での爆発がトラックの積荷の事故として小さく触れられた程度だ。 …
コメントを残す