「ラボ」の仮眠室。
かつての自分の身体に別れを告げたクランとラズは、二人並んでベッドに寝そべっていた。
「……お兄ちゃん、寝ちゃった?」
「みたい。そっとしておいてあげよう、ラズ」
緋衣瑠生は、双子のベッドの横でパイプ椅子に座ったまま眠っていた。
彼女たちが眠るまで見守るはずが、先に眠りに落ちてしまったその膝には、ゲームセンターで取った白いうさぎのぬいぐるみが抱かれている。
「今日は大変だったもんね、お兄ちゃん」
「そうだね。……ラズ、ありがとう。クランのこと助けてくれて」
「ラズはお兄ちゃんのこと、ちょっと手伝っただけだよ」
「ううん、ラズがいなかったらきっとだめだった。だから、本当にありがとう」
頼もしい妹の手を、クランはしっかりと握った。
「……『もうひとり』、どう?」
「うん。ちゃんとクランの中にとけてきたよ」
「今度はほんと?」
「うん、今度はほんと。ごめんね、ラズ」
ラズはクランの顎に頭を押し付け、そのまま姉の体にしがみつく。
「ラズは、クランのことすっごく大事なんだからね」
「うん、ありがとう。これからは困ったとき、ちゃんとラズに話すね」
抱き寄せた妹の頭を、クランはそっと撫でる。
「……でも、今日は楽しかった。お兄ちゃんとお姉ちゃんと、一緒に遊べて」
「そうだね。また今日みたいに出かけたいね」
一緒に歩いた道。水族館。昼食のレストラン。ゲームセンター。買い物。
――そして。
「……ねえ、ラズ。……あのね。……クランね」
ラズは、姉の高鳴る心音を間近で聴いていた。
「ん。……わかるよ。ラズの中にも、その気持ちはあるから」
姉と妹は互いに目を合わせ、頷き合い。
音を立てないように起き上がり、ベッドの端に腰掛ける。
自分たちの贈り物を大切に抱きしめながら、傍らで眠るその顔に。
右から、左から。
そっと自らの顔を寄せてゆく。
潤む瞳で見つめ、ささやくようにその名を呼んで。
誰より愛しい人の頬に、そっと口づけた。