緋衣瑠生の住まうマンションの一室、就寝の一時間ほど前。
双子の姉妹・クランとラズは、風呂場の浴槽に並んで浸かっていた。
「ねえ、クラン」
左隣に座る双子の姉に、妹が語りかける。
「……あったかくて、気持ちいいね」
「うん。不思議だね」
「お兄ちゃん、やっぱりやさしいね」
「そうだね」
「ラズたちのこと、ちゃんと『クラン』と『ラズ』だって、わかってくれたね」
「うん」
「ここにいていいって、言ってくれたね」
「うん。ここにおいてくださいって、クランたちが言うより先に」
「……『嬉しい』って、こんな感じなんだね」
「うん。……あったかくて、気持ちいいね」
ラズは、隣で微笑むクランの姿をじっと見つめていた。
クランが視線を返す。
互いの瞳が、互いの姿を映す合わせ鏡になった。
「ねえ、クラン……ラズは、ちゃんとここにいる?」
「うん。クランの目の前に、ラズがいるよ」
クランは今日の外出でそうしたように、右手で妹の左手をとって繋ぐと、水面から持ち上げた。
そのまま、手のひら同士を合わせる格好になる。
「ここからそっちがラズのからだ。ここからこっちがクランのからだ。……ラズから見えるクランは、どう?」
「うん。クランがいる。ラズの隣にいる」
ラズの細めた目には、安心の色があった。
「クランがいてくれて良かった」
「クランもだよ。ラズが一緒じゃなかったら、自分がわからなくなってたかもしれない」
二人は先ほど脱衣所の鏡で見た、自分たちの姿を思い出す。
瓜二つの顔かたち。髪と肌の色が違う、それ以外はまったく同じ二つの身体。
「でも、同じ顔で、同じ身体のラズが隣にいるから、自分のかたちを見失わない」
その言葉を確かめるようにクランが指に力を込める。
白い肌と褐色の肌が、太極を描くように絡まった。
「クランたち、ふたりで良かった。一緒にここまで来られて、本当によかった」
「ラズもだよ。……ありがと、クラン」
握られたのと同じだけの力で、ラズも姉の手を握り返した。