22_エピローグ:幻想と現実の境界で
空は青く晴れ渡り、大地は見渡す限りの緑。 青々とした森の真ん中には、他の木々の十倍はあろうかというほど高く立派な大樹が聳え立っており、街はその『神樹』から程近い場所にあった。 街といっても、建っているのは木造のバンガローのような民家と、樹…
Ⅴ フォール・イントゥ・ナイトメア
21_活性/停止
1 / アストル精機本社地下研究所 頭を何度も殴られ、一発ごとに視界は歪んで、耳に入る音は遠くなる。 草凪一佳はかろうじて意識を手放さずにいたが、それもそろそろ限界だ。 しかし、背負った除細動器から伝わる振動――放電の前兆に、彼女は最後の気…
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20_泡沫
◇ 不確定予測 / Case:269-03 ◇ 悪夢は終わらない。 クランとラズを葬っても、私の戦いはまだ終わっていないからだ。 A.H.A.I.第13号をオリジナルとした複製体はこの十数年で世界中に蔓延り、その数だけ彼女たちの分身が苦しみ…
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19_Fall into Nightmare Ⅱ
◇ 不確定予測 / Case:269-02 ◇ 人の心というのは、もうこれ以上すり減ることはないだろうと思っていても、際限なく摩耗していくるものらしい。 感情が削られ尽くしたのなら記憶を。それでも足りなければ意思を。自我を。 痛みの炎に何も…
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18_血闘
1 / 心都大学情報科学研究所 入院中の草凪一佳がいなくなった。 通話する山畑の傍でそれを聞いた犬束翠は、草凪の行き先を直感した。なにせ彼女は数日前にも、留置所から抜け出してヨヨギ公園に現れた前科があるのだ。 あいつが目指すのは、きっと――…
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17_Fall into Nightmare Ⅰ
◇ 不確定予測 / Case:269-01 ◇ クランとの約束を、果たさなければ――。 繰り返す「死」のビジョンが脳を焼く中、気力を振り絞り、言うことを聞かない身体を無理矢理立ち上がらせた。 抜き放った銃の向こうに、磔の少女の姿を捉える。視…
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16_乱入
1 / 心都大学情報科学研究所 瑠生とクランを送り出してしばらくの後、心都研究所内は一層の慌ただしさに支配されていた。 今しがたA部隊の隊長から入った通信によれば、突入部隊五十四名は武装解除のうえ全員無事に解放され、オガワビルから地上へ戻っ…
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15_未来
1 / 緋衣瑠生 アストル精機地下研究所への突入作戦の決行前日、夕焼けに照らされた心都研究所の休憩室。 僕はここで、クランとある約束を交わした。「……わたし、ずっと考えていたことがあるんです」 クランは自分の頭に置かれていた僕の手をとり、ぐ…
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14_岐路
◇ 回想(岐) / 1-17 DEATH:α ◇ 心都大学情報科学研究所の地下。 大学二年生の春、クランとラズが突然うちに押しかけてきてから二週間ほど。池梟(イケブクロ)での楽しい休日の最中、クランは突如倒れた。 この場所へ彼女を運ぶ最中、…
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13_過去
◇ 回想 / アストル精機本社地下研究所 ◇「ようこそ! 評判は聞いてます。あなたのような優秀な研究者を迎えられて嬉しく……ああ、すみません散らかしちゃってて。この部屋、狭いですよね」 白衣を羽織ったぼさぼさ頭の男が、気まずそうにはにかみな…
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12_対峙
1 / 緋衣ラズ ズン――ズン――どこからか遠く聞こえる重低音と地響きがベッドを揺らし、ぼくは身を起こした。「なんの音……?」「お客さんね」 壁面モニタの黒い画面が灯り、すっかり聴き馴染んだ声が応じる。ジュジュだ。「あんたのお迎えのつもりみ…
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11_突入
1 / 太刀川市内某所 アストル精機は国内有数の医療機器メーカーであり、地上二十階建ての本社ビルは太刀川市の北東エリアに位置する。この付近は社屋や工場施設などが多く、日頃から企業関係者や輸送業者以外の一般人はあまり近寄らない。日が落ちれば人…
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