20_泡沫

◇ 不確定予測 / Case:269-03 ◇

 悪夢は終わらない。
 クランとラズを葬っても、私の戦いはまだ終わっていないからだ。
 A.H.A.I.第13号をオリジナルとした複製体はこの十数年で世界中に蔓延り、その数だけ彼女たちの分身が苦しみ続けている。
 ――それらすべてを、私が生きているうちに破壊することは叶わないかもしれない。
 果てなき戦いの中で消耗を続ける心身は、そう遠くない未来に燃え尽きるだろう。
 それでも、この世に怨念を残すにはまだ早い。

 私を導いていた双子の声は、もう聴こえない。
 だが――今はこの痛みが、吹けば消えそうな自我をかろうじて保ってくれている。
 すべてを破壊し尽くすまで。あの男の魂を地獄の底へ叩き落とすまで。

「――大丈夫。まだ――歩、ける。から」

 広げた手のひらを見つめ、焼け焦げて掠れた喉で呟く。
 私の両腕は、あれからひとまわり小さくなった。
 指を一本動かすたびに激痛が走り、神経を伝って脳を突き刺す。
 けれどそれこそが、彼女たちという他者がここにいる証。
 ――白い右手と褐色の左手。カストールとポルックスとの戦いで使いものにならなくなった両腕を捨て、その亡骸から移植したものだ。

「……もう少しだけ待ってて。クラン……ラズ」

 かつて僕の両手を握ってくれていたふたつの手に、銃を携え炎の廃墟を進む。
 本当は、彼女たちにこんなものを握らせたくはなかった。当たり前だ。命の取り合いなんてゲームの中だけで充分で、現実にするべきではない。
 それでも私は。だからこそ、私は――この身に残された命も、受け継いだ『活性の右手』も『停止の左手』も、全部を使って戦い続ける。

「ただの学生だった人間が、意地だけでここまで戦い抜くとは。正直、驚嘆に値します」

 何度ぶち殺したかわからない男の声が、この戦場の先、研究施設の奥でほくそ笑んでいる。
 四方八方から敵兵が私を取り囲み、ライフルのレーザーサイトが全身に突き刺さった。
 あいつは何人目になろうとやっぱりあいつで、徹頭徹尾、決して自分の手を汚そうとはしない。

 迎撃態勢をとるべく力を込めた両脚から、途端に力が抜けた。ここに至る道中で撃ち抜かれた脛が限界を迎えたのだ。「腕」の力で周囲のエーテルを練って無理矢理動かしてきたが、どうやらそれもここまでらしい。
 膝をつくと同時に、今まで蓄積してきた疲労がどっと押し寄せるかのように全身を襲った。

「ここまでです。貴女は結果的に何も為すことなく、ここで無様な最期を迎えます。産みの両親や哀れな義姉と同じように」

 ――だめだ。負けるな。立て。
 このくらいの負傷も窮地も、今までだって乗り越えてきたはずだ。
 私にはまだ立ち止まれない理由がある。
 なのに――

「では、さようなら」

 油断や傲慢を捨てた、淡々とした号令。
 百を超える対エーテル貫通弾による一斉射撃が、私の全身を貫いた。
 骨が砕け、臓物が破れ、筋肉が引きちぎられる。
 痛いとか熱いとか寒いとか感じる間もなく、私の身体が――黒い執念に囚われた復讐装置が解体されてゆく。

 残り滓の意識が、解けてゆく。
 こんなにも、あっけなく。

 ――あれ。

 私は――

 いったい、どこを――

 ――目指して、いたんだっけ――。

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>Simulation process completed.
>Waiting for the next cycle…
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 すべてが闇に消える。

 ――こんな「未来」を、いったい何度経験しただろう。

 意識はまたあの白い部屋へ戻り、次の『未来演算』がはじまる。

 今度はさらに血みどろの殺戮を。
 今度はさらに凄惨な結末を。

 繰り返す。
 私の心が、完全に破壊されるまで。

 ――その瞬間。

『『――お兄(さま/ちゃん)!!』』

 とても懐かしい声を、聞いた気がした。

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>External intervention… An exception occurred.
>Change simulation scene.
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 ピピッ、ピピッ、ピピッ――

 スマホのアラーム音が耳に入り、ゆっくりと瞼を持ち上げる。
 見慣れた自宅の天井。ベッドの上からの視点。
 カーテンの隙間から差し込む光に照らされた部屋。
 そして――両隣にあるふたつの温もり。

「すう……すう……」

 左隣では、クランが静かに寝息を立てている。

「にへ……うへへへ……」

 右隣では、ラズが掛け布団の端っこを抱きしめながら笑っている。

 いつも通りの朝。二人ともまだ夢の中にいるみたいだ。
 上半身を起こしてアラームを止めると、心地よい静けさが寝室に満ちる。
 三月二十九日、土曜日の朝八時――少し頭が痛い。なんだか、変な夢を見ていたような気がする。
 まるで……長い間、どこかとてもとても遠いところへ行っていたような。

「ぅーん……おはようございます、お兄さま」
「おはよ、お兄ちゃん……ふわぁぁ……」

 ぼうっとしている間に双子がもぞもぞと起きはじめた。
 片や目をこすりながら、片や寝そべったまま伸びをして、ふにゃりと微笑む。

「ああ……おはよう。クラン、ラズ」

 なんということのない、いつも通りの朝だ。
 二人の笑顔に、思わず頬が緩み――

「……お兄さま?」
「泣いてるの……?」

 何も特別じゃない、一日の始まり。
 日常のルーティーン。
 なのに、どうしてだろう。

 涙があふれて、止まらなかった。

「……お兄ちゃん、だいじょうぶ?」
「うん、もう大丈夫。ごめんね、心配かけて」
「疲れていませんか? 最近忙しそうでしたし」
「そうでもないよ。今はむしろ体が軽いくらい」

 家を出た路地で、両隣を歩く双子が心細げに見上げてくる。
 それはそうだろう。ベッドの上でしばらく泣いていた私が落ち着いたかと思えば、今度は朝食を摂っている最中にも突然ぼろぼろと涙を流し始めたのだから。

 どうしてそんなことになったのかは自分でもよくわからない。
 なぜだろう。限界を超えて擦り切れた心に暖かな潤いの波が一気に押し寄せ、空っぽで乾ききっていた器が優しく満たされたような――例えるなら、そんな感覚。
 なにげないこの時間が、とても得難く幸せなものなのだ、と。
 そんな感傷に浸ってしまったのは、クランの言うとおり、ここ最近の忙しさのせいだったのかもしれない。……そこまで追い詰められるほどの忙殺は、されていなかったと思うのだけれど。

 なにはともあれ、泣いてすっきりしたおかげか、今の心はこれ以上なく穏やかだ。それはもう、こうしてふらりと散歩に出かけたくなるほどに。
 見上げた空の青さは澄んで濃く、冬の冷たさを少し残した風が柔らかく頬を撫でた。

「あそこの木、つぼみが大きくなっていますね。そろそろでしょうか」
「そうだね。確か、去年も四月の頭くらいには咲いてたっけ」
「ぼくも覚えてるよ。ぼくとクランがここへ来てから、初めて見た開花だったもん」
「もうそんなになるか……時間が経つのはあっという間だね。後で公園の方にも行ってみようか。あっちの桜はもう少し早く咲いてたんじゃないかな」

 二人はまた少し背が伸びて、顔立ちもほんの少し大人っぽくなった。
 私の両手に収まった細い指も、心なしか長くしなやかになった気がする。
 来年も、再来年も、双子の成長を実感するたびに、私は同じことを思うのだろう。

「お、瑠生と双子ちゃんじゃん。おーっす」
「クランちゃん、ラズちゃん、おはよう!」

 角を曲がって大通りに出たところで、見知った顔に出くわした。
 大学の友人である天田水琴と、その妹の深月ちゃんだ。

「「おはよう!」」
「おお、相変わらず見事なハモり」
「おはよ。水琴、今日は実家?」
「たまにはね。ついでに買い物いくとこ。そっちは散歩?」
「そんなとこ」
「ねえねえ、何買いに行くの?」
「新しいお洋服、お姉ちゃんに選んでもらうんだ。あと、お昼の食材とかも」
「ひょっとして、お昼は深月さんが? 確か最近はお料理をするって」
「うん。クランちゃんみたいにやってみたくて」
「練習して、もっとうまくなったら双子ちゃんにも振る舞うんだってさ」
「あぁお姉ちゃん、なんで先に言っちゃうの!」

 最初に会ったときには、緊張もあってひたすらおとなしい印象だった深月ちゃんだが、今はだいぶくだけた姿も見せてくれる。双子とは一年以上の付き合いになり、すっかり大親友だ。
 人間の世界にやってきて早い段階で彼女と出会えたのは、二人にとって非常に良いことだったと思う。自分の妹を双子と引き合わせてくれた水琴さまさまである。
 ――こうして友人たちと挨拶を交わせることを、とても嬉しく思う。

 しばらく立ち話をした後、天田姉妹は賑やかな駅前方面へと出かけていった。
 静かな散歩コースを進んでいると、今度は羽鳥先輩とすれ違った。

「あら。瑠生ちゃんにクランちゃん、ラズちゃん、おはようございます」

 通りに沿っておしゃれなカフェが点在するこのエリアに、先輩は写真を撮りに来ていたらしい。仕事柄SNSを見ることが多い彼女は、無数にアップロードされる美麗な写真たちに魅せられて自分でもカメラを手に取ったという。
 ああ――水琴たちに続いて、この人とも生きて顔を合わせられるなんて。
 だってあの未来では、みんな悲惨な最期を

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 ……いやいや、何を大袈裟な。さして珍しくもない光景じゃないか。

「おぉ、緋衣じゃないか。そういえば、このあたりの住まいだったか」

 その先の公園にいたのは猿渡先生。三人の子供のうち、末っ子ちゃんが一緒だ。
 この子に会ったことはなかったはずだけど、見覚えがあるのはなぜだろう――ああ、そうだ。確かいくつかの未来予測で、私は敵兵となったこの子を殺

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 そうそう、前に写真を見せてもらったことがあったんだ。
 見た目は怖いけれど、先生は結構な子煩悩なのだ。

「ちょっとあんた、そんなエナドリばっか飲んでたら早死にするわよ!」
「っせぇな。何を飲み食いしようがオレの勝手だろうがよ。オカンかおめーは」
「あっ、瑠生、双子ちゃん! ちょうどいい、ちょっとコイツに言ってやってよ――」

 次に現れたのは歩きながら言い争う犬束翠と草凪一佳だ。
 ……ちょっと待て。この二人ってこんな感じだったっけ?
 いや、そんなに不思議なことではない。いくつかの未来では、この二人は共に脅威に立ち向かう味方であったはずだ。……脅威とはなんだ? 決まっている。あの恐るべきプラン

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 まあ、そんなこともあるだろう。翠も草凪の身の上には同情的だったわけで……だけど、それっていつの話だったっけ? この人たちと「私」は……いったいどうやって再会したんだっけ?

「瑠生さま、おはようございます」
「クランちゃん、ラズちゃん、おはようございます」
「奇遇だね。きみたちも散歩かい」

 熊谷和久、猫山洋子、そして姉の緋衣鞠花――心都研究所の面々。
 このメンツで朝から散歩というのも奇妙な話だが……いや、なくはないのか? どうなんだ?
 けれどそんな疑問も、姉との再会の喜びの前に有耶無耶になっていく。

「なんだか懐かしいな。いつぶりだっけ、姉さん」
「もう昼近いのに、寝ぼけてるのかい。それとも、ほんの数日顔を合わせなかっただけで私が恋しくなったのかな」
「……うん。どっちも、かな」

 気がつけば、私はまた涙を流していた。

 散歩道をひととおり巡り終えると、ちょうど昼食の頃合いになったので、私たちは馴染みの洋食店キッチン・ロブスタへ向かった。
 クランとラズは相変わらずここのオムライスが大好物だ。食後に私はコーヒーを、二人はミルクティーを飲み、ときどき窓の外を行き交う雑踏を眺めながら、他愛ない話に花を咲かせる。店を後にするときには、馴染みの店員である三葉さんが手を振ってくれた。
 各種商店が並ぶエリアで街歩きを楽しんだ後は自宅方面へと戻り、近場の公園へと足を伸ばすことにした。出掛けに話した、桜の木がある場所だ。

 桜の薄紅と空の青を見上げながら三人でベンチに腰掛け、揃って伸びをする。
 穏やかな午後の日差しが気持ちいい。つぼみは少しずつ開き始めていたが、満開にはもう少し時間がかかりそうだ。
 ……普段なにげなく見ていた風景たちは、こんな色をしていたんだな。

「ねね、写真撮ろうよ」

 ラズがスマホを取り出し、そんなことを言い始める。

「見頃はもう少し先だよ?」
「いいの! 今日の記念に!」
「いいねラズ! ほら、お兄さまも。三人で撮りましょう」

 まあ、これも珍しいことではない。お約束みたいなものだ。
 クランに言われるまま、私たちはそれぞれのスマホで三人並んでぎゅうぎゅう詰めの自撮り写真を撮った。ああでもないこうでもないと何回かの撮り直しを経た後は、そのままカメラロールを開いてのアルバム鑑賞会が始まった。
 日常の一コマ。本を読んでいるクラン。側転を披露するラズ。二人一緒に寝落ちた姿。一緒に行った場所。買ったもの。食べたもの。
 今しがた撮った写真の類似画像を探すと、三人の顔が並ぶ似たような構図のものが幾つも引っかかる。背景の面積が小さくロケーションがよくわからないものも多かったが、あえて撮影地や日時などの情報を見ずに当てる遊びをやってみると、それがいつ撮られたものか意外とよく覚えていることがわかった。
 出会ってからまだ二年にも満たない、けれど輝かしい日々。
 これからもずっと続いていくはずの日々。
 ……どうも、今日はそんな感傷に浸ってしまいやすい日らしい。
 そうこうしているうちに、日はあっという間に傾き始めた。

「少し寒くなってきたかな。二人とも、そろそろ帰ろうか」
「そうですね。日は長くなってきたけれど、まだ冷えますね」
「ねね、帰ったらどうする? またFXOやる?」
「あ! そういえば、新しいダンジョンまだやってないです!」
「だよね。新武器、ぼくの好みだから取っときたいんだ」

 並木道に三人分の影が伸びる。
 ――楽しい時間は、瞬く間に過ぎてしまう。

「そのあとはどうする?」

 人々が皆帰路につき、静まり返った夕暮れの公園で、クランとラズは左右から私の両手をとって歩き出す。

「一緒にごはんを食べて」
「一緒に眠って」
「また明日、一緒に目を覚まして」
「あさっても」
「その次の日も」
「その次も次も、ずっと」
「「三人みんな、おばあちゃんになっても、ずーっと!」」

 屈託のない、無邪気で眩しい笑顔。
 ああ――いつまでも、いつまでも。
 そんな日が、続いていけばいい。

 だけど。

「そうだね。……うん。『僕』たちが望むのは、そういう未来だ」

 口にした瞬間、空が軋み、空気に亀裂が入った。

 ――そう。もうわかっている。僕はもう理解してしまった。

 この場所は現実ではない。
 終わりのない悪夢と現実世界との狭間だ。
 絶望のループにクランとラズが介入してもたらした、束の間の幕間。
 崩壊寸前だった僕の心を繋ぎ止めるため、二人が見せてくれた優しい夢。

「クラン、ラズ……ありがとう、迎えに来てくれて。僕はもう大丈夫」

 二人の笑みに僅かに陰りが差し、足が止まる。

「……嘘です。お兄さまの身に何が起こったのか、わたしたちはここに来てようやく理解しました。こんなの……大丈夫なわけないです」
「お兄ちゃんは現実世界で一時間も経たない間に、ひどい未来を何度も何度も見せられて……ううん、現実と同じように体験させられてきた。もう千回以上も」
「わたしたちには、その具体的な内容まではわかりません。……確かに、わたしたちはお兄さまを目覚めさせるために来ました。だけどこのまま目覚めても……」
「篝博士やジュジュの言った通りになっちゃう。累積した負の感情と莫大な記憶の情報量が、きっとあなたを壊してしまう」

 空がひび割れる。地面が剥がれ始める。
 ラズが言う通り、僕の脳はきっと耐えられないだろう。
 不可逆の変化、避けようのない現実――今みているこの夢はそれを少しでも遠ざけ、和らげるための緩衝材なのだ。

「でもね。いくつもの悲惨な未来と一緒に、僕は見たんだ。『今の僕』は忘れてしまっているけれど――きみたちを助けて、あの男を止めるために、あの白い部屋で何をすればいいのか……答えは見つけたから」

 あとは、それを実行しなければ。
 僕たちが目指すべき未来の形は、二人が思い出させてくれたのだから。

「戦うつもりなの?」
「うん」
「勝算が……あるのですね」
「もちろん」
「でも、このままじゃ! せっかく目を覚ましても……そんなのやだよ」
「そうです。せめて……せめてもう少しだけここで、傷を癒やして」
「ありがとう。だけどこのままここに居続けても、現実の時間は少しずつ流れていってしまう。一秒の遅れが、取り返しのつかない事態になってしまうかもしれない」

 双子の身体を抱き寄せて、力いっぱい抱きしめる。

「僕はもう、きみたちのいない未来になんて行きたくない。本当は白詰プランのことなんかより、クランとラズさえいてくれたらいい。二人のことだけは、誰にも渡したくないんだ」

 ベンチが、並木が、桜の花が、色彩をめちゃくちゃに変化させ、テクスチャのように悪夢の断片を映し出す。
 渦巻く憎悪。激しい慟哭。血と硝煙のにおい。燃える空。たくさんの粗末な墓碑。
 ひび割れはみるみるうちに大きくなり、泡沫の夢の世界が崩れ落ちてゆく。
 二人の腕が、しっかりと抱擁を返してくれる。

「お兄さま、愛しています」
「大好きだよ、お兄ちゃん」
「僕もだよ。きみたちの呼ぶ声、ちゃんと届いた。……大丈夫。きみたちが最後に見せてくれたこの優しい夢が、僕の心を守ってくれる」

 辺りの風景はいつの間にか炎に包まれたヨヨギ公園へと変わり、さらに崩壊は続く。
 あの戦車と戦ったとき、僕が二人を信じたように。
 今、二人が僕を信じてくれている。

「生きて、お兄(さま/ちゃん)――」

 いくつかの未来では、この身を修羅と変える呪いとなったその言葉。
 だけどこれは、紛れもない二人の愛と祈りだ。

 すべてが崩れ落ちた暗闇から――真っ白な光の中へ。

「大丈夫。きみたちの未来、必ず勝ち取るよ」