Ⅳ ドアーズ・オブ・メモリー

21_エピローグ:Doors of Memory

1 / 緋衣瑠生 嵐が去ったあとのイベント広場はやけに静かだった。 消防車のサイレンが遠く聞こえているものの、近くに来る様子はない。この場所は消防署が目と鼻の先だったと思うのだけど……。 それどころか、気がつけばあんなに派手に上がっていた火…

20_ふたごの星

1 / 緋衣瑠生 激しい光の瞬きが視界を白く染める。 かくして放たれた電撃は、目標に直撃した。 ――はずだった。「な、に――?」 息を呑むように絶句したのは、A.H.A.I.第4号アルルカンだ。 二人の少女を貫くはずの光の矢は着弾点で激しく…

19_For my DEARS

 目の前には鋼鉄の異形。 その右手には、この身を焼き潰すための激しい光。 その左手には、捕まって高く掲げられた最愛の人。 圧倒的な暴力装置がこちらを見下ろしている。 ――わたしたちは、あの人の役に立てているのか。 ――ぼくたちは、存在してい…

18_終幕

1 / ヨヨギ公園での小さな戦争を、無人となったクリスマスマーケットのテント陰から静かに見守っている存在があった。 ひとつは栗色の長髪に白い肌、白いローブ姿の少女。もうひとつは金色がかった白い髪と褐色の肌、緑の服と革鎧に赤いマフラーの少女。…

17_戦うA.H.A.I.

1 / 緋衣瑠生 戦いの幕が上がったのは、気を失った熊谷さんを僕たちが三人がかりで引きずり、近くの売店の陰に横たえるのとほぼ同時だった。アレキサンダーを取り囲んだ八機のドローンが、高空から一斉にアサルトライフルの銃撃を浴びせたのだ。 フルオ…

16_アレキサンダーの咆吼

1 / 緋衣瑠生 ――その人形たちを壊しに来た。 草凪一佳は、そう言い放った。「まさか、この子たちのことを言ってるわけ?」「他にいないでしょ。オマエの大事なお人形さんだよ」 今のクランとラズに一番聞かせたくない呼び方だ。強い嫌悪と怒りが胸に…

15_Jester

 なんか変なやつがいる。 当時六歳の草凪一佳にとって、隣の席に座っていた子供の最初の印象はそれだった。「えっと……草凪、一佳さん? その……僕、緋衣。緋衣瑠生っていいます」「……そう」「あの……よろしく」「……ん」「……ぁぅ……」 小学校に…

14_メリークリスマス!:12月24日(火)

1 / 緋衣瑠生 そして世間は十二月二十四日を迎えた。 いろいろありはしたものの、直近かつ特大の心配事がなくなったことは事実で、そうであるなら僕の、そしてクランとラズのこの日の予定はもちろん決まっている。 時刻は正午過ぎ。街灯には赤や緑のフ…

13_Arlequin Ⅲ

1 / 湊区内 雑居ビル 草凪一佳の父母は、もともと神川機関のシンパであったという。 熱心な支持者であり、資金源でもあった彼らをなぜ「処理」しなければならなかったのか。当時末端の一人に過ぎなかった男は、その事情の正確なところまで把握していた…

12_Org-Dolls

1 / 緋衣瑠生 僕たちはその後、第4号のリクエストに応え、これまでの事件で他のA.H.A.I.たちとどのように出会い、起こった騒動がどのように決着したかを語ることになった。 第5号の襲撃。第8号の策謀。第6号のハロウィン騒ぎ。第4号はそれ…

10_緋衣鞠花の分身たち:12月21日(土)

1 / 緋衣瑠生 なんかすごいものを見てしまった。多分見てはいけなかったやつだ。 煽られてムキになってしまったのだとクランは言う。 冗談のつもりがああなってしまったとラズは言う。 でもその割に、絡められた指はいやに情熱的だった気がする。いや…